この記事では、『VIVANT』第2シーズン(第13話〜第15話)の内容に触れています。未視聴の方はご注意ください。
第14話から、野崎さんのいる場所の名前が出てきました。ルモー地区。
ゴルバド共和国の中にある町で、外の世界とネットワークがつながっていない。通信は他国へ漏れず、監視カメラにも外から入れない。「世界一安全な町」と説明されていました。
地図で探しても、当然出てきません。ゴルバド共和国そのものが架空の国だからです。
では、あの町並みはどこで撮ったのか。調べていくと、アゼルバイジャンのシェキという古い町に行き着きました。しかもその町は、去年わたしが大阪万博で見上げていたものと、思いがけないところでつながっていました。
ルモー地区は実在しない|「世界一安全な町」という設定

先に答えを書きます。ルモー地区は実在しません。
そもそも、それがあるゴルバド共和国自体が架空の国です。前の記事でも書きましたが、アゼルバイジャンの隣国という設定で作られた、『VIVANT』のための国。第1シーズンのバルカ共和国と同じ仕組みですね。
ルモー地区について、ドラマの中ではこう説明されていました。
外部ネットワークと接続しない、独自のインフラを持っている。だから通信が他国へ漏れない。町じゅうの監視カメラにも、外部から接続できない。だから「世界一安全な町」。
そしてこの町の中に、シンシーの拠点があります。シンシーは、ドラマの中で中国の別班のような組織と説明された組織です。野崎さんが毎朝通っているルモーテクノマテリアルは情報を扱う施設で、シンシー本部はそれとは別の場所。ポリグラフが行われるのは、本部のほうです。
そしてシンシー側は、野崎さんを疑っています。本当に日本を裏切ったのか、それとも潜入捜査なのか。それを確かめるために、本部でポリグラフ(嘘発見器)にかけると告げました。樊林杏だけでなく、ほかの幹部たちも立ち会う場になるようです。
第15話は、その手前で終わりました。
つまりルモー地区は、野崎さんにとって二重に閉じた町です。外の世界とつながらないだけでなく、町の中でも疑われ、これから試されようとしている。
安全な町。でも、その安全は誰のためのものなのか。第15話を見ながら、そこが引っかかっていました。
ルモーの町を撮ったのは、世界遺産の古都シェキだった

野崎さんが歩いていた、あの石畳と石壁の町。
複数のロケ地情報を突き合わせると、撮影地はアゼルバイジャン北部のシェキ(Şəki)でした。前の記事で「5つの世界遺産のひとつ」として名前を出した、あの町です。
アゼルバイジャン北部、大コーカサス山脈の南のふもとに広がる町です。写真を見ていただくと分かりますが、どの角度から撮っても後ろに山があります。2019年に「シェキの歴史地区とハーンの宮殿」としてユネスコの世界遺産に登録されました。
つまり、世界一安全な近未来の町を、300年前の街並みで撮っているということになります。
言われてみると、思い当たることがあります。ルモーの町が映ったとき、近未来的な設備と古い石造りの建物が同じ画面に入っていました。あれは美術で作り込んだ違和感ではなく、本物の古都に、近未来の設定を重ねていたわけです。
シェキのどこで撮ったのか|ミナレット・隊商宿・ホテル

ロケ地情報をたどると、シェキの中でも撮影場所がかなり具体的に分かってきます。
ジュマ・モスクのミナレット
第15話で使われています。ミナレットとは、モスクに付いている細い塔のこと。743年建設、アゼルバイジャン最古のモスクです。町を見下ろす位置にあります。
下部キャラバンサライの南側
キャラバンサライは、シルクロードを行き来した隊商が泊まった宿です。シェキに残るものはコーカサス最大級。前の記事にも載せたこの中庭の写真、実はこの隊商宿と同じつくりをしています。アーチが連なって、真ん中に水場がある。商人たちが荷物を降ろし、ラクダを休ませた場所です。

そして『VIVANT(2026) ナビ』では、別班が拘束されていた場所としてキャラバンサライが紹介されていました。1,000年ものあいだ旅人を泊めてきた建物が、いまは人を閉じ込める場所として映っている。
シェキ・サライ・ホテル
こちらも第15話。『VIVANT(2026) ナビ』でも説明されていた場所です。
ハーン宮殿の遺構
第14話、野崎さんが歩くシーンです。18世紀初頭に建てられたペルシャ風の宮殿。ここが、次の話につながります。
万博で見た「編み目の建物」の正体は、シェキのシェベケだった

ここからが、この記事でいちばん書きたかったところです。
シェキのハーン宮殿には、シェベケ(şəbəkə)と呼ばれる窓があります。
細い木を格子状に組んで、そこに色ガラスをはめ込んだもの。特徴は、釘を1本も、接着剤も使っていないことです。木に彫った溝どうしをかみ合わせるだけで固定しています。
実物の写真を見ると、想像していたものとまるで違いました。
壁の上下いっぱいに窓が並んでいて、そのすべてが細かい模様で埋まっています。上の段は、白い地に黄色い花が放射状に開く模様。下の段は、青い地の中央に赤い菱形。木の格子は網の目のように細く、ガラスの一片は驚くほど小さい。「はめ込む」という言葉から想像する大きさではありませんでした。
朝、外から光が差すと、その色ガラスを通った光が、床や壁に七色の幾何学模様を落とします。

そして、ここで去年の話につながります。
大阪・関西万博のアゼルバイジャン館。あの建物の外観は、シェベケの模様から着想を得たものでした。
これはわたしの推測ではありません。アゼルバイジャン政府の発表に、はっきりこう書かれています。
The facade design of the three-story pavilion is inspired by ‘shebeke’ patterns
(3階建てのパビリオンの外観デザインは、シェベケの模様に着想を得ている)
わたしがあのとき「編み目になった独特の建物だな」と思って見上げていた模様。あれの故郷が、野崎さんがいま歩いている町だったということになります。
去年の夏に自分の足で見に行った模様が、1年後、ドラマの中で目の前に出てくる。こういうことがあるんですね。
ちなみにあのパビリオンのテーマは「Seven Bridges for Sustainability(持続可能性への7つの橋)」でした。12世紀の詩人ニザミ・ガンジャヴィの叙事詩『七美女』から取られたもので、館内も7つの区画に分かれていました。入ってすぐの360度スクリーンを覚えている方もいるかもしれません。
外観に伝統工芸、テーマに800年前の詩。あの建物は、まるごとアゼルバイジャンの歴史でできていたわけです。
そしてシェベケは、いまも工房が残る現役の技術です。ひとつの窓に何千もの小さな色ガラスが使われることもあり、それを押さえているのは釘でも接着剤でもなく、木の格子の精度だけ。ぴたりと組まれているから、ガラスが落ちてこない。
300年前の窓が、いまも同じ場所で光を通しています。
実物の色と細かさは、写真で見ていただくのがいちばんです。ユネスコの世界遺産センターに、シェキの公式ギャラリーがあります。
「Shabaka」と題された写真が、まさにこの窓です。
ルモーテクノマテリアルの煙突|正体は火力発電所

野崎さんが毎朝通っていた、あの巨大な施設。
高い煙突がそびえるルモーテクノマテリアルの外観は、アゼルバイジャン火力発電所で撮影されたとされています。
これも実在の施設です。場所はミンゲチェヴィルという町。300メガワットの発電機が8基、合わせて2,400メガワットという規模で、アゼルバイジャン最大級の発電所でした。
そして煙突の高さが320メートルあります。
東京タワーが333メートルですから、ほぼ同じ高さのものが建っていることになります。あの画面の威圧感は、美術で作られたものではありませんでした。本物の巨大構造物です。
情報を扱う会社が、なぜ発電所の姿をしているのか。これは意外と筋が通っています。膨大なデータを処理する施設は、実際に大量の電力を必要とするからです。「情報の町」の心臓部が発電所の形をしているのは、比喩としても正確でした。
古都シェキの石畳を歩いていた画面が、次のカットで巨大な工業施設に切り替わる。あの落差そのものが、ルモーという町の説明になっていました。
なお、第2シーズンには日本国内で撮られたカットも混ざっているようです。ロケ地情報には、セラミックパークMINO(岐阜県多治見市)、アイメッセ山梨、明知ガイシ的場工場(岐阜県恵那市)といった名前が挙がっていました。
ただしこちらは、いまのところ出どころをひとつしか確認できていません。どの場面にあたるのかも特定できていないので、参考程度に置いておきます。
エルサレムもアゼルバイジャンだった|シルヴァンシャー宮殿

第13話の終わり、野崎さんがたどり着いた場所。エルサレムだと思って見ていました。
『VIVANT(2026) ナビ』によると、あそこはバクー旧市街のシルヴァンシャー宮殿です。
15世紀ごろに建てられた宮殿で、こちらも世界遺産(城壁都市バクー、シルヴァンシャー宮殿、及び乙女の塔)。土色の石壁とアーチが続く姿は、たしかにエルサレムの旧市街と言われれば信じてしまいます。

ほかにも番組では、ゴブスタンの砂漠でラクダを撮影する様子や、ベキの葬儀のシーンが紹介されていたそうです。ゴブスタンも世界遺産です。
こうして並べると、見えてくるものがあります。
- エルサレム → バクー(シルヴァンシャー宮殿)
- 砂漠 → ゴブスタン
- ゴルバド共和国ルモー地区 → シェキ
別々の国に見えていた場所が、全部アゼルバイジャンの中にあったわけです。ひとつの国の中で、これだけ違う顔を撮れる。前の記事で「東西の文化が交わる国」と書きましたが、その意味がロケ地の使い方にそのまま出ています。
「天網」は実在する|約2億台のカメラが見ている

第15話で、チンギスから乃木さんへ渡された言葉。
「天網恢恢疎にして漏らさず」
悪いことをしても最後には天の網から逃げられない、ということわざです。ここまでは、わたしも意味を知っていました。
ただ、この言葉にはもうひとつの顔があります。
「天網」は、中国で実際に運用されている監視カメラ網の名前です。
中国国内の監視カメラは約2億台とされ、AIによる顔認証と組み合わせて運用されていると報じられています。名前の由来はまさに、あのことわざ。
そう考えると、あのメッセージは二重でした。「悪事は見逃されない」という警告であると同時に、「こちらは巨大な監視網の中にいる」という現在地の報告でもあった。
ルモーが「町じゅうの監視カメラに外部から接続できない町」だったことを思い出してください。外から入れないということは、中にいる人間は完全に見られているということでもあります。
同じ第15話で、ベキの葬儀の場面にはもうひとつ言葉が出てきました。「πの様な世界」。何が正義で、何が悪か、永久に答えが出ない世界のことだと説明されていました。
割り切れない数と、すべてを見通す網。正反対のようで、どちらも同じことを言っている気がします。答えが出ないまま、見られ続ける。
シンシーが目指しているものも、たぶんそこにあります。外部から切り離し、すべてを監視すれば、犯罪も裏切りも起きない。ルモーは、その考えを町の形にしたものでした。
それを「安全」と呼ぶか「息苦しい」と呼ぶかは、たぶん見る人によって割れます。わたしは正直、あの町の映像を見たときに「きれいな町だな」と思いました。近未来的な設備と古い街並みが、きれいに交わっている町だと。怖いとは思わなかったんです。
なぜ「閉じた町」を「開かれた古都」で撮ったのか

最後に、ひとつだけ考えたことを書かせてください。
ルモーは、外の世界と切り離された町です。通信も、カメラも、外へはつながらない。閉じることで安全を手に入れた町。
一方、撮影地のシェキはどうでしょう。
シルクロードの隊商が行き交い、隊商宿に泊まり、荷を置いて次の町へ向かった場所です。ペルシャの建築様式が入り、ヨーロッパからガラスが持ち込まれ、それを地元の職人が木組みに仕立ててシェベケになった。外から来るものを受け入れ続けたからこそ、あの町並みができています。
閉じた町を、開かれ続けた町で撮っている。
意図的なのか、たまたま画になる場所を選んだ結果なのかは分かりません。ただ、シェベケという窓のことを知ってしまうと、偶然とは思いにくくなります。
あの窓は、光を通すために作られています。 何千もの木片を釘なしで組んで、わざわざ外の光を中へ入れるための仕掛けです。
その町で、外と一切つながらない町の話を撮っている。
野崎さんがいるのは、たしかに「世界一安全な町」です。でもその安全は、外から誰も入れないという意味であって、中にいる人が自由だという意味ではありません。これから嘘発見器にかけられようとしている野崎さんを見ながら、そう思いました。
さて、乃木さんたちはあの町にどうやって入るんでしょうか。外部ネットワークから切り離された町に、ドラム、太田、そして別班がどう手を伸ばすのか。
そこがいちばんの見ものです。
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