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『VIVANT』のフローライトとは?世界中が欲しがる理由を調べたら、核融合とウランに行き着いた

暗い洞窟の岩の窪みで、青紫色に光る立方体の蛍石の結晶 夏ドラマ

日曜劇場『VIVANT』公式サイト

この記事では、『VIVANT』第1シーズンと、第2シーズン第16話の内容に触れています。未視聴の方はご注意ください。

第16話を見ていて、ずっと引っかかっていたことがあります。

エリシャが発明したという核融合技術のデータ。それを欲しがる国がたくさんある、という話が出てきました。世界中が欲しがるほど価値のあるもの、というところで、第1シーズンのことを思い出したんです。

テントも、同じようなものを掘っていたはずです。フローライトという鉱石。

ふたつが劇中でつながると決まったわけではありません。ここはわたしの勝手な想像です。ただ、そう思ったら、そもそもフローライトって何なんだろうというほうが気になってきました。

石です。ただの石が、どうして国をひとつ食わせられるほどの価値になるのか。

調べたら、思っていたよりずっと大きな話でした。そして最後に、核融合よりも直接つながっているものが出てきて、いちばん驚きました。

フローライトは実在する|「蛍石」という名前で、日本にも昔あった

淡い緑色の立方体の結晶がびっしりと積み重なった蛍石の標本

まず、フローライトは実在します。バルカ共和国と違って、こちらは本物です。

日本語では蛍石(ほたるいし)。フッ素とカルシウムがくっついてできた石です。

上の写真がその結晶です。きれいな立方体が積み重なっているのが分かるでしょうか。これは削って形を整えたものではなく、自然にこの形で出てきます。緑のほかに、紫、青、黄色、無色といろいろな色があります。

名前の由来も面白いです。加熱すると、蛍のように光って弾ける。だから蛍石。

そして英語名のほう。fluorspar の「fluo」はラテン語で「流れる」という意味です。昔から製鉄のときに入れると鉄の材料が流れやすくなるので、そう呼ばれました。

オレンジ色に光る溶けた鉄が流れ落ちている。防護服を着た作業員が周りに立っている

製鉄の現場は、こういうところです。この溶けた材料に蛍石を入れると流れがよくなる。それが名前の由来になりました。

ここが個人的にいちばん驚いたところなのですが、「フッ素」という名前そのものが、この石から生まれています。石が先で、フッ素が後です。

日本でも昔は採れていました。ただし掘れる場所がなくなり、1972年に「もう採れません」と宣言されています。いま日本にある蛍石は、ほぼ輸入品です。

なぜ「唯一」なのか|フッ素を取り出せる鉱石が、これしかない

濃い紫に光る大きな蛍石のかたまり。左の縁に黄色っぽい鉱物がついている

掘り出したままの蛍石です。さっきの緑の結晶と同じ石には見えませんが、同じ蛍石。この紫の部分から、フッ素を取り出します。

ここからが本題です。

フッ素は、身の回りにあふれています。こげつかないフライパン、歯磨き粉、エアコンの中を流れるガス、スマホの電池の中身。

では、そのフッ素はどこから来るのか。

アメリカの国の調査機関(USGS)の資料に、はっきり書かれていました。まとまった量を掘り出せるフッ素の鉱石は、蛍石しかない、と。

そして掘り出された蛍石の6割ほどが、フッ酸という液体になります。フッ素を使うものは、ほぼ全部このフッ酸から始まります

この石がどこへ流れていくのか、1枚にしてみました。

蛍石からフッ酸ができ、そこから半導体・身のまわりのもの・ウラン濃縮・核融合炉の材料へ枝分かれする流れ図

そして、蛍石の代わりになる鉱石はありません。

「代わりがない」というのが、この石の価値のすべてです。高いから価値があるのではなく、なくなったら止まるものが多すぎるから価値がある。

同じ資料には、アメリカも蛍石とその加工品のほとんど全部を輸入に頼っていると書かれていました。持っている国と、持っていない国が、はっきり分かれる資源です。

テントが「テロではなく、この事業で人を養う」と考えたのが、少し分かる気がしてきました。

半導体が止まる|フッ酸には代わりがきかない

黄色い照明のクリーンルームで、防塵服とマスクをつけた人がシリコンウエハーを手にしている

フッ酸のいちばん有名な行き先が、半導体です。

半導体は、シリコンの薄い円盤に細かい回路を刻んで作ります。その削るとき洗うときに、フッ酸を使います。

しかも、代わりがききません。

ちなみに蛍石は、カメラや天体望遠鏡の高級レンズにもなります。光をよく通して、色のにじみが出にくいからです。

ここまでは、『VIVANT』が放送されたときにも、あちこちで書かれた話です。わたしが調べたかったのは、その先でした。

核融合との関係|フッ素は使われる。ただし主役ではない

真空容器の内側で赤く光るプラズマ

では、第16話の核融合とはつながるのか。

つながります。ただし、細い線でした。

核融合の炉には、燃えている部分をぐるりと囲む壁があります。この壁が炉を冷やしながら、同時に次の燃料も作るという仕組みです。

この壁の材料の候補のひとつに、フッ素を使った塩があります。「フリーベ」と呼ばれるもので、名前のとおりフッ素が入っています。アメリカで設計されている小型の核融合炉が、これを使う計画です。

上の写真は、実験装置の中で赤く光っているところです。この光を囲む壁に、蛍石から作られたフッ素が入るかもしれない、という話になります。

ただし、ここは正直に書きます。

  • これは候補のひとつで、本命ではありません
  • 日本原子力研究開発機構の解説では、この方式はさびの問題があって、発電用としては今は検討されていないとされています
  • 核融合が本当に必要としているのは、フッ素ではなくリチウムです。フッ素は、それを運ぶ入れ物にすぎません

なので、「核融合にフローライトは欠かせない」とまでは言えません。関係はある。でも主役ではない。

そして調べを進めるうちに、もっと太い線が出てきました。

じつは、いまの原子力のほうが直結していた|ウラン濃縮とフッ酸

黄色い大型機械が灰色の円筒を吊り上げ、作業員が横で支えている。奥に同じ円筒が並ぶ

ここがいちばん驚いたところです。

原子力発電に使うウランは、掘ったままでは使えません。濃縮という下ごしらえが要ります。

そして濃縮するには、ウランをいったんガスに変える必要があります。そのガスを作るのに使うのがフッ酸で、できあがるガスの名前は「六フッ化ウラン」。名前の中に、フッ素が入っています。

さきほどの調査機関も、フッ酸の主な使い道として「アルミニウムとウランの処理」を挙げています。

蛍石がなければ、フッ酸が作れない。フッ酸がなければ、ウランを濃縮できない。

上の写真は、そのガスを入れた円筒を専用の機械で動かしているところです(写真のものは、使い終わったあとの保管用です)。世界中のこうした施設が、たどればあの石にぶら下がっています。

核融合とは「候補どまり」でしたが、いまの原子力とは直結していた。これが今回いちばんの発見でした。

「世界中の国が欲しがる鉱石」という設定は、現実の話としても無理がありませんでした。

第16話の核融合と、テントのフローライト|ここからは考察です

ここからは資料の話ではなく、わたしの想像です。劇中でそう説明されたわけではありません。

第16話で、エリシャが発明した核融合技術のデータを、複数の国が奪い合っている、という構図が見えてきました。

一方、第1シーズンでテントが手にしていたのは、フローライトの鉱山でした。テロではなく採掘の事業で、孤児院や貧しい人たちを支えようとしていた。

このふたつは、直接つながる必要はないと思っています。同じ形をしているだけで十分だからです。

どちらも「世界中の国が欲しがるもの」です。そして、どちらもそれを持った者の立場を一気に変えてしまうものです。

テントは、鉱石を持つことで、暴力に頼らない道を選べるかもしれなかった。その同じ物語が、いま核融合のデータをめぐって、もっと大きな規模で繰り返されようとしている。

伏線として仕込まれているのか、それとも作品が一貫して同じテーマを扱っているだけなのかは、まだ分かりません。ただ、「価値のあるものを持った人間が、それをどう使うか」という問いは、第1シーズンから変わっていない気がします。

現実の側にも、ひとつ気になる話があります。米エネルギー省などの2024年の報告によると、さきほどのフッ素の塩は、いま手に入りにくくなっているそうです。核融合を本気でやろうとすると、材料の取り合いが起きる。

ドラマの中の話と、現実に起きていることが、少しだけ同じ方向を向いています。

これから何が出てくるのか|いま気になっていること

ここからも、わたしの想像です。

第16話では、エリシャが何か条件を出しているらしい、という話も出てきました。中身はまだ明かされていません。もしその条件に第1シーズンの話が関わってくるなら、テントとあの鉱山が、もう一度物語の真ん中に戻ってくることになります。

そうなったときに気になるのが、あの鉱山はいまどうなっているのかです。誰が持っていて、誰が掘っているのか。ノコルは守れているのか。第1シーズンで、あれだけの犠牲を払って手に入れた場所です。

もうひとつ。いま各国が奪い合っているのは「技術」です。

でも技術は、そのままでは何も生みません。形にするには材料が要ります。そして、この記事で見てきたとおり、その材料の入口はおどろくほど細い。

技術を持つ者と、材料を持つ者。物語がその2つを別々の場所に置いているのなら、いつかぶつかるはずです。そのとき材料の側に立っているのがテントだったら——というのは、さすがに考えすぎでしょうか。

それから、乃木さんのことです。

乃木さんがいま守ろうとしているのは、人なのか、技術なのか。第16話を見ているかぎり、まだ人だと思います。別班員と野崎さんを助けることを、いちばん上に置いている。

でも話が国と国の話になっていくほど、その順番を保つのは難しくなるはずです。誰かが「人より情報が大事だ」と言い出す場面が、たぶん来ます。

次に見るときは、エリシャの条件の中身と、テントの名前がもう一度出てくるかどうか。この2つを待っています。

テントが掘っていたものは、何だったのか

すり鉢のように何段も掘り下げられた、巨大な露天掘りの鉱山

最後にまとめます。

上の写真はオーストラリアの金鉱山で、蛍石の鉱山ではありません。ただ、地面を掘って鉱石を取り出すというのは、こういう規模の話です。

フローライトは、ただの珍しい石ではありませんでした。

フッ素を取り出せる、たったひとつの鉱石です。そこから作られるフッ酸が、半導体を作り、電池を作り、ウランを濃縮し、核融合炉の材料の候補にもなっている。

代わりがありません。持っている国と、持っていない国に分かれます。日本で掘れる場所は、50年以上前になくなりました。

第1シーズンで、あの地割れの底からテントが掘り出そうとしていたのは、宝石ではなく、いまの世の中をいちばん下で支えている石だった、ということになります。

そう思って見返すと、あの鉱山をめぐって国が動き、人が死んでいく展開が、急に現実的な重さを持ってきます。あれは「架空の国の、架空の宝の話」ではなかったのかもしれません。

さて、この鉱山が実際にどこで撮影されたのかも調べました。地上と地下で、撮影した国が違っていました。そちらは別の記事にまとめています。

この記事で確認できていないこと

  • フローライトと、第16話の核融合技術が劇中でつながるのかどうか(説明されていません)
  • 劇中のフローライトが、現実のどの用途を想定した設定なのか

写真クレジット

  • アイキャッチはAIで作成した画像です(実在の場所ではありません)
  • 流れ図は当ブログで作成しました(出典は図の中に記載)
  • 蛍石の結晶(緑):© Raimond Spekking / CC BY-SA 4.0 (via Wikimedia Commons)(サイズ変更)
  • 蛍石のかたまり(紫):Photo: James St. John / Wikimedia Commons / CC BY 2.0(サイズ変更)
  • 露天掘りの鉱山:Photo: Calistemon / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(サイズ変更)
  • 溶けた鉄、シリコンウエハー、プラズマ、六フッ化ウランのシリンダーは、いずれもアメリカ政府(海軍・エネルギー省)撮影のパブリックドメイン画像

参考にした資料

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